【座談会】GAIによるデザインの民主化とリアリティライン
Aug 10, 2023
はじめに
こんにちは。CGチームの永島です。
今回は、moncler-genius-ai-campaign(モンクレールジーニアスがAI生成画像を活用したキャンペーンを行った)記事をきっかけに、社内メンバー3名でGAI(general artificial intelligence 汎用人工知能)について座談会を行ったときの話をまとめました。この座談会では、制作(武藤)・運営(上條)・一般(永島)のそれぞれ3つの視点からGAIについて考え、話をしていきます。
デザインの民主化を実感
永島:moncler-geniusのAI生成画像をみたんですが、monclerのブランドイメージを崩さずAIで画像再現できていて、monclerとAIの相性の良さを感じました。ダウンアイテムだから出力しやすいんでしょうか。
武藤:普段私たちがMidjourneyで画像生成するときもダウンアイテムはよく出てきますよね。そのプロンプトに対するAIの学習量など、Midjourneyの特性も相まって相性がいいのかも知れませんね。もし、ブランド名 “moncler” を実際にプロンプトに打って画像生成しているとしたら、それはそれである意味すごいなと思います。
永島:確かに、monclerのような有名ブランドだとAIが既にそのブランド自体を認識している可能性はありますよね。
他に武藤さんが感じたことはありますか?
武藤:デザイナーやクリエイターが生成した画像と、私たち社内メンバーを含め一般の人が生成した画像とで、思ったより精度に違いがなかったことが面白かったです。
永島:それは私も感じました!Midjourneyで画像生成する(=同じツールを使う)という制約があるからかも知れませんね。Midjourneyで画像生成する上で必要になってくるスキルって「いかに想像できて、AIを考慮しつつ適切なプロンプトが打てるか」くらいなので、物理的スキルのハードルが低い分、誰でも簡単に画像生成できる。それがGAIの良いところでもあるなと思っています。
武藤:上田さん(オムニス社長)が提言していた「デザインの民主化」が実際に起きているのを実感しますね。一般の人がファッションを作り出すことができる。その答え合わせ的な感じになりました。
GAI生成画像における情報量の捉え方
永島:別の機会に「GAI生成画像は情報量が多い」と武藤さんが話していましたよね?それについて詳しく聞いてみたいです。
武藤:例えば今までの一般的な「デザイン画」を思い浮かべると、抽象的だったりむしろ情報が少ないケースもありますが、AIで生成した画像は逆に情報量が多いので、ものづくりをする上で「必要な要素とは何か、そのなかで何を残すか」という問題が発生しがちだなと感じています。AIが出してきた情報が具体的すぎて表現せざるを得ない感覚もあったります。
上條:そういうのもありますね。具体的にどういう場面でそう感じたんですか?
武藤:Midjourneyで画像生成したデザインを初めて3Dモデリングしたときにそれを感じました。制作を終えてしばらくのあいだ「これで良かったのかな、悪かったのかな」と混乱状態が続いたんですよね。なにが正解だったのかなと自問自答するなかで、「最終的にアウトプットした制作物には情報が盛り沢山だったな」と、あとから振り返ったときに思ったんです。
あの時は、AIのガビガビしている詳細な部分までなるべく再現したいという思いがありました。その反面実際にリアルな服として作られるということも意識しながら制作を進めていました。CGを駆使してMidjourneyの画像を忠実に再現しようと調整していった結果、いろんな情報が盛り盛りになった制作物が出来上がったという感じです。
このように、いままでは情報を全部盛り込んだ上で更に「こうしよう、ああしよう」と調整しながら制作していってたんですが、最初から省く姿勢を持っておくことも大事かも知れないなと、いまでは思っています。GAI画像には様々な要素が含まれているので、それを受け取った時にちゃんと精査するということをしておかないと、情報過多が故に制作過程で方向性を見失ってしまう。そこは難しいなと感じています。
上條:実際に人が仕事をする際の視点で考えてみると、デザイナーもパタンナーもデザインや設計をする仕事ですが、デザイナーは服そのもののデザインや着用したときのコーディネート提案を中心にして考えるので、よりクリエイティブやビジュアル的なデザインアプローチをします。パタンナーは人の体型や着用した時の着心地・動きのこと考慮するのでより人間工学的なアプローチになります。しかし、現在のGAIで生成できる画像はあくまでビジュアルに特化したものなんです。見た目は考慮できても人間工学的なデザインはできません。今後 扱える情報が増えてマルチモーダル化が進み、着心地などデータ化が難しいと思われているものも含めた生成が可能になればこの点は解消されていくと思いますが、まだまだ時間がかかるジャンルかなと思います。
永島:例えば、MDなど企画や運営側から見た場合、GAI生成画像の情報量の多さについてどう捉えますか?
上條:企画段階でのコミュニケーション手法で例えると、通常はスペックや生地、他のスクラップ画像のコラージュなど断片的な情報をそれぞれの人々が頭の中で組み立てながら作っていくので、より抽象性が高く、前提となる専門知識や価値観を共有した上でのコミュニケーションが必要とされる。一方で、GAIを活用すればそれらを統合したものを1つの画像として「ビジュアライズ」してくれるで、それをもとに皆んなの意思統一が簡単になる。そういう面ではメリットだと感じています。
リアリティラインの違い。エンタメだと許容できるが、リアルな現場では許容されない
永島:画像生成AIは今後、静止画から動画へと発展するんでしょうか?Gen2なども出てきてますが、もっと流通して精度が上がって、一般の人がMidjourneyで画像生成できるのと同じように動画もそうなったらすごいなと思います。PVとかも作れちゃいそうですよね。
武藤:今日お昼食べながらYouTubeでアイドルの個人PVみたいなのを何気なく見てたんですけど、突然共演者がキャラクターに変わったんですよ。これ絶対AIだよなと思って見ていたら「アイドル名 × AI」というタイトルで。がっつり置き換えの技術を使っていたので、こんなところにまでAIが使われるようになったんだなと思いました。
上條:最近こういうジャンルは多いですよね。グラビアアイドル本人が自分の画像をAIに学習させて、生成画像によるAI写真集を作ったなんて記事もみました。「人間の画像が作れる」ということにみんな注目していて、そういう切り口が多い。つまり、その子が着ている服に対してではなく ”アイドルそのものが作れる” という、総合エンターテインメントとして捉えている部分が大きいのかなと思います。
結局ファッションも総合エンターテインメントだから、モデルも服も可愛くなきゃいけないみたいな話が出てくるけど、とはいえ「この人が着ている服変だな」などに着目したときの解像度は、いま話していた総合エンタメとしての捉え方や活用事例とは異なる気がします。総合エンターテインメントとして見ると、人も洋服も完全である必要はない。全体のバランスから差し引きで許容される部分があると思うけど、「洋服」という観点に限定すると、洋服としての完成度や魅力を重視するため、その点には一定の難しさがあると感じています。つまりそれぞれファッションを扱っているのですが、必要とされる情報のリアリティラインが違うんですよね
GAIによる生成画像や3DCGで製作した画像をみて「プロモーションとかなら活用できるかもね」みたいな話がよく出てきますが、洋服ビジネスにおけるエンタメ部分がプロモーションなんですよね。エンタメ要素が強いから許容できるし実践しやすい。対して、パターンや縫製など実際に製造する現場に近い場面では、リアリティこそすべてなので、AIがなんとなくそうっぽく作ったファジーさを許容しづらいし、ないならないで補完する、いらないものは削る事が必要で、これらの作業が追加で発生してしまいます。どこまでのリアリティが求められるのかによって、活用や導入のしやすさにグラデーションがありますね。
武藤:最近はエンタメ要素が強いところと弱いところを行ったり来たりすることが多いです。
視点の多様性と異なるアプローチ
永島:もし、MidjourneyのようなGAIツールが学生時代にあったら、めちゃくちゃ活用できたんじゃないかと思ったんですが、武藤さんはどう思いますか?
武藤:自分もファッション専門学校に通っていたのでなんとなく空気感は一緒なんじゃないかなと思うんですが、デザインを作るプロセスにおいて、デザインを作ってそれを形にしていく作業はいまも変わらず行われていると思うんですよね。実際いまの現場(学校)でどういうプロセスでやっているかというのはわからないですが、当時主流だったのは「リサーチブックを作る」というのがデザインを作るプロセスのスタートでした。
コンセプトを決めて、ピンタレストとかで画像をかき集めてきてビジュアル化して、そこからどう服に落としていくか。それらが作業の一連の流れなので、リサーチからデザインを作るところまでをGAIが担えるのかなって思っています。学生の頃の自分もそうでしたが、細かい仕様とかよりも「インパクトがあってコンセプチュアルで見たことないものを作る」みたいなものに惹かれるんですよね。自分には出せないものが自分の手で作ったように生み出せる楽しみや、面白さがあるので、そういう部分ではGAIを活用できそうです。
永島:「どこで活用できるか」は常に頭にありますよね。GAI活用の「壁」みたいなのは感じますか?
武藤:生み出せる楽しみや面白さはあるけど、それを実際服に落と込んでいったときに、みんながぶつかる壁になっていくんじゃないかなと思います。客観的にみて、Midjourneyが画像生成した不思議な世界観や奇抜なデザインを実際リアルで着用したりしないだろうし、お店で買ったりもしないと思う。学生だったら学校のなかのクリエイションとして何を作るかは自由だけど、社会に出たらそうはいかない。
それこそアパレル企業で展開されているようなブランドさんとかとはMidjourneyの使い方が全然違うんですよね。服作りのプロたちがかたちになるまで手を加えているとはいえ、実際に着用できそうな服をMidjourneyで画像生成から作っていっているのは、すごいなと思います。私たちCGチームはGAIを元にZepetoのモデルを制作することの方が多いので、そこは興味深いです。
学生であれば自分で決めたテーマで自由に活用したり、私たちCGチームであればaccelerando.Aiというブランドの中でコンセプトに沿った活用方法がありますね。
永島:GAIを使う人の立ち位置で、GAIに対する考え方や活用方法の違い、というのは出てきますよね。全部を完璧にMidjourneyで出力しようとするのには無理がありますし、目的が明確ならばPhotoshopのようにMidjourney以外のツールでできることは沢山ありますよね。
上條:「全体を通してどういう工程が存在していて、GAIを活用したときにどう変わるのか」それがまだみんなの中で想像がついていないんですよね。全工程を幅広く網羅的に理解している人もいなければ、GAIに置き換わったときの想像もつきづらい。いまはそんな状態です。
永島:今後さらに環境が整うことにより活用の幅が広がっていくことを期待しましょう!
最後に
今回は、GAIでの画像生成と、視点や活用についての話をしました。
他にも「GAIが生み出した新素材などに興味が沸く」「クラフツマンシップがGAIでどう変わっていくのか気になる」「GAI動画生成ツールも試してみたい」など話題が尽きませんでした。
また機会があったら書きたいと思います!